Monthly rep. 2022年07月 ―行政・企業関連―

今月は、行政・企業関連分野の状況を整理した。閣議で了解された令和5年度予算の概算要求基準によると、岸田首相の目指す「新しい資本主義」の重点投資分野には上限額が設けられず、金額の明示不要な「事項要求」や8月末の期限以後の要求も認められている。いわば青天井の特別枠だが、これにグリーントランスフォーメーション(GX)とデジタルトランスフォーメーション(DX)が含まれている。政権内には、GXを推進することで新たな成長領域の創出につなげたい一方、諸外国に後れをとっていると首相自ら危機感を抱くDXを一気に加速させたい狙いがあるためだ。

GXをめぐっては、脱炭素社会に移行するための投資などに使途を限定した国債「GX経済移行債(仮称)」の発行が検討されている。今後10年間に官民合わせて150兆円超の投資を実現するために、政府として20兆円規模の資金を確保して民間資金を呼び込みたい考え。政府は早ければ2023年の通常国会に関連法案を提出し、同年度中の発行を目指す。また、二酸化炭素(CO2)の排出量取引制度の創設に向けた議論の場として、脱炭素に先進的に取り組む企業で構成する「GXリーグ」も発足させた。参加を表明したのは、電力、鉄鋼、化学、石油、自動車などの主要企業440社で、各社のCO2排出量を合わせると国内全体の3割に相当する規模になる。GXリーグでは、企業が自らの掲げる削減目標を超過して達成できた場合、超過分を排出削減枠として市場で売買できる仕組みを想定しており、実証実験が9月から東京証券取引所で予定されている。GXリーグへの参加は任意で、削減目標未達でも罰則はない。経済産業省は企業の削減努力と脱炭素産業の成長を促すため、GXリーグへの参加を一部の補助金の応募要件にするほか、努力した企業が資本市場や顧客から評価される仕組みも今後構築する。なお、これらの施策は2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにするという政府の目標に沿ったものだが、世界では2019年に米アマゾンなどが設立した有志の企業連合「クライメート・プレッジ」が、10年も前倒しにした2040年までの排出量実質ゼロを既に掲げている。参加企業は米マイクロソフト、独メルセデス・ベンツグループ、英ユニリーバをはじめ世界で300社を超えているが、日本からは産業廃棄物処理の石坂産業と素材開発スタートアップのTBMの2社にとどまる。ESG投資が環境や人権などに配慮した企業に集中していく中、日本企業が海外の競争相手に対して差別化を図れる状況を作り出していけるかが、国と企業にとっての課題となる。

DXの分野では、自治体が提供するオープンデータを民間が活用し、新たなサービスを生み出す動きが活発化している。行政機関が持つデータをインターネットなどで誰でも再利用できるようにする仕組みで、官民データ活用推進基本法に則して対応をしている自治体は、都道府県の全てと市町村の約7割に達している。自動処理しにくいPDFファイルでの公開もまだ少なくない中、せっかく公開するデータを利用してもらうための工夫をこらすことで、行政単独では困難だった課題を官民の二人三脚による解決に結びつけているところもある。例えば東京都では、オープンデータを駆使して都民らのQOL(生活の質)向上のアイデアを競ってもらうコンテスト(ハッカソン)を開催し、そこで提案されたサービスの実現に向けて動き出している。DXで地域課題の解決を図る他の試みとしては、山間いの過疎地である新潟県長岡市の旧山古志村で2021年末に始まった「仮想山古志プロジェクト」が非常にユニークだ。人口800人ほどの山古志には、それを上回る「デジタル村民」がおり、プロジェクトでは彼らを住民の一員とみなして、彼らのアイデアや資金をリアルな地域課題の解決に活用している。デジタル村民は実際の住民ではないが、仮想空間上で独自に発行される電子住民票を持っている。電子住民票は、複製や偽造が不可能な非代替性トークン(NFT)のデジタルアートを購入すると取得でき、プロジェクトの意思決定に加われる。デジタル村民から募った事業プランの中から実際の活動を決める際には「総選挙」が行われ、リアルとデジタルの住民をつなぐ場の形成や、写真による山古志の魅力の発信などが、デジタルアートの売上の一部を財源として実行に移されてきた。こうした新たな自治の仕組みは「DAO(分散型自律組織)」と呼ばれ、運営にはブロックチェーン(分散型台帳)や仮想通貨のテクノロジーが用いられている。既存の行政の枠組みを超えているが、長岡市が公式パートナーとして支え、総務省は過疎地域の持続的発展を支援する資金を交付した。DAOは新たな地域創生と自治のあり方として域外からも注目され、岩手県紫波町が設立を発表している。

どの国・地域・企業も、気候の変動や社会構造の変化への対応を否応なく迫られている。これまでのあり方に安住したり囚われたりすることなく、野心的な目標を掲げ、スピード感を持って主体的に挑戦してこそ打開の糸口をつかみ得るというこれらの事例に学びつつ、官民の動きに注視していきたい。

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BCT Monthly report 2022年07月