Monthly rep. 2022年08月 ―交通・物流関連―

今月は、交通・物流関連分野の状況を整理した。公共交通機関は重要な社会インフラだが、鉄道は人口減と長引くコロナ禍で利用者が減っている。2022年4月の全国の鉄道乗客数は約17億人と、コロナ禍前の19年4月に比べて2割減り、JRの本州3社は20~21年度が連続で最終赤字だった。都市部で在宅勤務が広がり、WEB会議も定着したため、通勤や出張はコロナ以前の水準に戻らないと鉄道大手はみる。事業を存続させるため、国や自治体は大胆な施策に踏み切り、事業者側もコスト削減や増収の策を進めるなかで、鉄道のあり方は徐々に様変わりしている。また、鉄道に頼れない地域では、自動運転移動サービスへの期待が膨らむ。

国は、鉄道会社が運賃を時間帯によって変えられる「ダイナミックプライシング」の制度設計に入った。鉄道運賃は従来、必要な費用の合計に一定の利潤を加える「総括原価方式」による認可制だったが、事業者に自由度を認める。混む時間帯は高く、空いている時は安くして混み具合を平準化できれば、ピークに合わせて多数の車両や人員を配置する必要がなくなり、事業者はコストを抑えられる。ただ、時間帯別運賃が定期券にも適用されると、オフピークの定期券は割安になっても通常の定期券は値上がりする可能性がある。一方、国は不採算路線について、存続策や代替手段の検討を促す。輸送密度(1㎞あたりの一日平均利用者数)が1,000人未満の路線には、国主導で沿線自治体と鉄道事業者の協議会を設置する。運行と設備の維持コストを自治体が鉄道事業者と分担する「上下分離」や、交通税の導入、線路跡等に敷設した専用の道にバスを走らせるBRT(バス高速輸送システム)などが今後の選択肢になる。

鉄道大手は人材再配置によるコスト削減を進める。JR東日本は鉄道事業の運営要員約34,000人を今後30,000人未満に減らす。早期退職は募らず、定年退職などの自然減や配置転換で対応し、配転対象者には学び直しを支援して不動産や流通などの成長分野へ回す。主要駅のみどりの窓口を2020年比で2割減らしたり、ワンマン運転を拡大したりしているほか、省人化に大きく貢献しているのが線路保守作業のデジタル化だ。在来線の最高速130㎞/hでの走行中でも、線路にレーザーを当ててレールのゆがみを0.1㎜単位で測定できる装置や、ボルトの状態を撮影するカメラを電車の床下に取り付けてデータを収集。自動判定ソフトで不具合を確認し、ビッグデータを基に事故の予兆も検知する。この方法で定期的に監視している線路は約6,500㎞に及び、保守作業の人件費削減などによって2023年3月期には20年3月期比170億円のコストを削減できるという。他社の新交通システムで既に実現している無人運転も、山手線で10月から実証運転を始める。他方、収益源を探る事業者の動きとしては「貨客混載」がある。JR東日本は新幹線の空きスペースで地方の野菜などを運んでおり、在来線特急も活用して駅ナカの通路や店舗で地方の名産品を販売している。京成電鉄も実証実験として週に1回程度、地もの野菜を沿線駅から通勤電車で成田空港駅まで運び、空港内の系列レストランで提供する。運搬手段をトラックから列車に置き換えるので、二酸化炭素(CO2)の排出削減にもなるという。JR九州はヤマト運輸と組み、焼きたてパンや生鮮食品を九州域内で流通させる実証実験を始めた。

過疎地など利用者が限られる地域の多くは、そもそも鉄道がない。バスやタクシーも人手不足や経営難で公共交通手段が衰退しがちな中、地域住民や観光客の移動手段として、運転手を必要としない自動運転移動サービスへの期待が高まる。国は2023年3月に改正道路交通法を施行し、一定の路線内や自動車専用道路、特定敷地内、低速走行地域など特定条件下で完全自動運転が可能な「レベル4」の公道走行を解禁する。参入する事業者は遠隔監視者を配置して事故時の対応を義務付けられるが、その際、一人で同時に何台もの車両を監視を担当できることが採算面で必須となるが、カメラの映像から乗客の行動を人工知能(AI)で即時に分析し、危険な行動を検出した際は乗客に自動でアナウンスしたり、走行ルート上で事前に危険箇所として設定された場所に車両が差しかかると遠隔監視者に自動で注意喚起したりするなどの、必要な技術が出そろってきた。万一、遠隔監視者が対応できない場合、乗客の安否確認や緊急通報、代車・レッカー手配などを支援するサービスも開発されている。

公共交通をはじめとする社会インフラは、日々の生活に欠かせないものとして身近な存在なだけに、「いつもの通り、そこにあるのが当たり前」と受け止められがちだが、存続をかけて絶えず形を変えているだけでなく消滅することさえあり、利用者も、また、事業者の下で働く従業員も、否応なく適応を迫られる。SDGs(持続可能な開発目標)は地球上の「誰一人取り残さない」ことを掲げているが、国や事業者による意思決定に際しては、様々な土地で暮らす様々な立場の人への配慮がなされることを求めたい。

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BCT Monthly report 2022年08月