Monthly rep. 2021年10月 ―食・自然―

今月は、食・自然分野の状況を整理してみた。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、産業革命前と比べた世界の気温上昇が2021~40年に1.5度に達するとの予測を公表した。18年の想定より10年ほど早くなる。人間活動の温暖化への影響は「疑う余地がない」と断定した。自然災害を増やす温暖化を抑えるには二酸化炭素排出を実質ゼロにする必要があると指摘。気温上昇の加速で熱波や干ばつ、豪雨が頻発するようになり、温暖化ガス削減などの対応が遅れるほど影響は増大する。一方、10月には、国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)が開催され、閣僚級会合では、「少なくとも2030年までに生物多様性の損失を逆転させ回復させる」とする「昆明宣言」が採択された。日米欧など主要7カ国は陸地と海洋の面積を、それぞれ30%を保全・保護することで合意しており、これを世界の共通目標とする方向で議論が進む。日本での30%の目標達成は簡単ではない。生物多様性の維持を徹底する手段としては、自然保護区への指定があり、日本は陸地の20%、海洋の13%をすでに保護区にしているが、新目標が決まれば、面積を大きく増やすことを迫られる。政府は企業が持つ林や工場敷地内の緑地といった民有地を生物多様性の保全地域に認定する仕組みをつくり、保護区を増やす方針。企業側も、日本の大手機関投資家や海外保険会社など55の金融機関が、生物多様性の保全や生態系回復に貢献すると宣言した。2024年までに生物多様性に関する目標を設定し、投融資先の企業に悪影響を抑えることなどを求める。そのためにはまず経済活動が生物多様性に与える影響を分析し、とるべき対応策を知る必要がある。これらを把握しようと、気候変動対策にならって、生物多様性に関する情報開示の枠組みづくりも始まった。生態系や森林など自然が失われることによる企業財務への影響をどう開示するか検討する国際組織「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」が発足し、23年中に情報開示の枠組みを公表する方針。生物多様性への配慮は投資家や企業にとっても欠かせなくなり始めている。WWFの報告書では、人類が生態系を守ることで経済損失を防ぐだけでなく世界の年間国内総生産(GDP)を110億ドル分押し上げると試算した。それを実現するには、社会経済のあり方を持続可能な形に変えていく必要がある。大量生産と大量消費をやめて、必要な分だけ作り長く使い続ける。重要な生物の生息地を保護するため、森林の伐採や干拓などの開発を控える。こうした取り組みを始めるとともに、生物多様性の喪失と表裏一体の関係にあり、喪失の一因にもなる気候変動を抑えることが欠かせない。

農業分野では、環境への対応が重要となる中、農林水産省は、食料の安定供給と地球環境の保全の両立を目指す「みどりの食料システム戦略」を策定。「みどりの戦略」では50年までに目指す姿として、農林水産業の二酸化炭素ゼロエミッション化の実現、化学農薬の使用量をリスク換算で50%低減、化学肥料の使用量を30%低減、耕地面積に占める有機農業の取り組み面積を25%に拡大、といった野心的な目標が掲げられている。農林水産省は、化学肥料や農薬を使わない有機農業への転換を促すため、担い手に補助金を出す新たな制度を設ける。有機農業への転換を促し、農業の脱炭素化を進める。例えば堆肥を活用して化学肥料の使用量を減らせば、脱炭素につなげられる。また、この戦略を実現するには、農薬や化成肥料を使わない有機農業の不利を補うテクノロジーも必要になる。手作業や経験に基づく農法が中心で労力がかかる有機農産物は、品質や収量が安定しないのが課題だが、先端技術を持ち込み効率よく有機農業の質・量を高める取り組みをスタートアップが行っている。有機米の生産では、除草作業を自動または遠隔操作で行う機械の導入や、ドローン空撮によるセンシングと人工知能解析を使い、稲の育ちからの収穫時期の判断や土壌の改良を行うなど、有機米収穫量を25%増やした実績を上げている。ただ、このような目標は一部の先進的な農業者の協力だけでは達成できず、一般的な農業者が自ら積極的に取り組めるような仕組みも必要となる。農業者にとってコスト増となるだけの単なる環境対策ではなく、収益性の向上にもつなげることが重要になる。例えば地方の自治体では、間伐材や家畜の排せつ物などを用いた堆肥を活用し資源循環型の農業を展開、堆肥を使って栽培した高品質な農産物を自治体主導でブランド化し、農業者の売り上げ増加に貢献しているところや、特産品の残さを活用して別の特産品を生み出す取り組みも各地で進んでいる。環境に優しくても価格が高い商品では消費者に継続購入してもらうのは難しい。環境への取り組みと品質向上・ブランド価値向上を組み合わせることが重要となる。

日本を含めてほとんどの国は、生産性を重視し、農薬と化学肥料を使うのを前提にして農業が成り立っており、有機農業を広げていくのは容易ではない。さらに、消費者と生産者には、「消費者は安全で安心なものを安く買いたい」、「農家はつくりやすいものを高く売りたい」というそれぞれ2つのエゴがあり、この2つエゴを乗り越えていくことが求められる。そのためには、生産性向上への取り組みは、もちろん必要だが、環境視点での消費者の理解も欠かせない。

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BCT Monthly report 2021年10月