Monthly rep. 2021年5月 ―最新技術・金融分野―

今月は、最新技術と金融分野の状況をそれぞれ整理してみた。鉄道各社では、鉄道設備の保守・メンテナンス業務の自動化への動きが広がっている。現状では、実際にメンテナンスをする作業員の減少や高齢化に伴い、労働集約型を維持することが難しく、保守・メンテナンス業務には、危険を伴う作業も多い。例えば、終電から始発までという、視野が狭まる夜間帯での作業や、高所作業が伴うトラス構造の橋梁の点検、高電圧が流れる電気設備などがある。そこで、鉄道会社では、ドローンを活用した鉄道設備の点検の実証を始めている。遠隔監視・点検により、安全性の向上だけでなく、工期の短縮にもつなげたい考え。また、JR西日本は、国内鉄道業界で初めてロボットアームを搭載した鉄道電気工事用車両を開発。電線を支える「ブラケット」の取り替え作業の機械化・自動化を可能にした。操縦者の繊細な動きを、光ファイバーを通してロボットの腕や指が再現するのが特長で、作業効率の大幅なアップが期待できる。これまでの試作機には指がなく、関節も少なかったため、滑らかな動きができなかった。今回の試作機は片手で持ったサッカーボールをもう一方の手に受け渡すことができる。将来的にはロボットの手にブラシやスプレー、ドライバー、チェーンソーなどの工具を持たせて作業させることを想定する。今後の課題は、人型重機がさらに細かい作業をできるかどうかに加え、夜間や過酷な自然条件の現場で操縦者の意思を円滑に実施できるかである。現状、保守・メンテナンスの機械化は、数%にも満たない。まだまだ人海戦術の作業は多い。安全対策とコスト構造改革をいかに両立できるかが、今後も持続可能な鉄道運営に向けての課題となる。

金融分野では、機関投資家が、ESGの取り組みも考慮して企業を評価するようになっており、その対象は株式から債券投資、融資にも及んでいる。資金調達においてESGの重要性がますます増している。そして、ESG関連債には、資金使途を環境・社会問題の解決につながる事業に限るサステナビリティボンドや、取り組みの達成度合いに応じて金利が変わるサステナビリティ・リンク・ローン(SLL)、投融資に伴う社会への影響を考慮するインパクトファイナンスなど様々なタイプが登場している。近年、資金使途を環境負荷の低減に絞るグリーンボンド(環境債)は、発行額が増え2020年はおよそ2700億ドル(約29兆円)と過去最大となった。ただ、電力、鉄鋼、化学といった温暖化ガスの排出量が多い業種は使いにくい。これらの事業を維持しつつ環境負荷を減らし、脱炭素へ移行させるための技術やシステムなどの導入に取り組む事業・企業を金融面で支えるのがトランジション・ファイナンスと呼ばれるもので、トランジション・ボンド(移行債)やトランジション・ローン(移行融資)で資金調達する。政府は50年までに、温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする「ゼロカーボン」を目指しており、達成には温暖化ガス排出が多い業種が早期に構造転換に動くことが不可欠で、移行債で企業の資金調達を後押しすることが求められる。一方、資産運用会社の間では、投資先の温暖化ガス排出量を2050年までに実質ゼロにする目標を掲げる動きが広がっている。世界の大手運用会社は、資産配分にも活用する長期の期待リターンやリスクの予測に気候変動の要素を組み入れる。排出削減に消極的な企業は投資対象から外されるリスクが高まっている。企業の脱炭素を促すのは、気候変動が金融機関にとっても大きな経営リスクとなるためである。CO2の排出1トンあたり50ドルの炭素税が課されると、エネルギー産業などの企業が債務不履行を起こす可能性が最大3倍に高まり、世界の金融機関は1兆ドルの損失を被るという。炭素税はフランスで既に1トン約53ドルを課し、30年までに100ドル超になる見通し。米国と欧州連合(EU)は、温暖化対策が不十分な国からの輸入品に課税する「国境炭素税」も検討している。また、日本でも炭素税が検討されている。こうした世界的な潮流の中、日本の大手機関投資家や金融機関なども、投資先による二酸化炭素(CO2)排出量を50年までに実質ゼロをめざすことを表明している。CO2排出量の削減に向けて、投資先の脱炭素の状況を踏まえて株式の売却や、排出量が上位の企業に対して集中的に脱炭素を促す対話を実施する。脱炭素社会の実現に寄与する債券などへの投資も拡大させていく。

企業は、世界で企業価値を競う上でも、脱炭素を実際の経営目標として実行に移す局面にある。脱炭素社会への移行には、企業自体がサステナブルな企業に転換することが求められる。政府補助金や減税に頼る「依存型」の移行プロセスより、市場に対して「野心的」な目標を示し、それを達成することで、企業はサステナブルであるとの評価を得ることができ、市場競争でも優位に立てることができるのではないか。また、投資マネーを呼び込むためには、不断にESG経営を磨き続けることが欠かせない。

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BCT Monthly report 2021年05月