Monthly rep. 2021年11月 ―最新技術・金融分野―

今月は、最新技術と金融分野の状況をそれぞれ整理してみた。経済産業省が「ロボットフレンドリーな環境」という概念を推進している。ロボットを導入していく上で、ロボット動きやすい環境を整えたり、要求されている作業レベルを引き下げることで、ロボット導入を進めようというもの。ロボットを導入しやすい環境整備をある程度まとめて進めることができれば、人手不足が進んでいる分野でもロボット導入の全体コストが下がる。主な対象としている分野は、施設管理、小売、食品製造で、取り組みが徐々に進んでいる。食品製造の分野では、スーパーやコンビニに並ぶお惣菜や弁当の盛り付けには多くの人手を必要としている。ご飯については自動で容器に盛り付ける機械があるが、特におかずの盛り付けは人手に頼っているのが現実。人間は器用で素早いが、現状では専用機械を使っても速度が遅く、スループットがなかなか上がらないからである。そこで、中食の盛り付けにおけるロボットフレンドリーな環境として、現状のロボット技術でもやりやすい盛り付け方法や、パッケージのあり方の検討を進めている。施設管理の分野では、少子高齢化社会における深刻な労働力不足などの観点から、サービスロボット活用への期待が寄せられる一方、段差等の障害物の排除など、ロボットの活用にあたり施設側の環境整備などの課題がある。この課題解決のため、「ロボットフレンドリーな環境」の構築に向けた調査、および研究開発が始まっている。これまで、サービスロボットの普及が進まない理由として、導入と運用のコストが高い、そして普及が進まないために台数が出ず、結果的に相変わらずロボットが普及しないという負のスパイラルに陥っていることが挙げられていたが、この負のスパイラルを反転できることに期待したい。

金融分野では、企業に対するESG情報開示で、統一した国際基準を作ろうという動きが出てきた。国際会計基準の策定を手掛けるIFRS財団が2022年6月をめどに世界共通の基準をつくる。IFRS財団は、COP26で基準づくりを担う新組織となる国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設立を発表。新基準は、世界の金融当局が設置し、ISSB設立までの準備作業部会に参加した「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に基づき検討する。現状のTCFDでは開示の考え方を示してはいるが、分析に使うシナリオや具体的な開示方法は企業に委ねられており、世界で活用が広がったが、開示内容がバラバラなうえ、温暖化ガス排出量や温暖化の被害額など数値開示が限られる点など課題があった。ISSBが、公表した原案では、温暖化ガス排出量について最大限の開示を求める内容となっている。原案では、工場での燃料燃焼など直接的な排出量「スコープ1」、他社から供給を受ける電気の発電などで出る「スコープ2」だけでなく、部品調達など取引網全体に関わる「スコープ3」も開示対象となっている。所属する産業にかかわらずスコープ3まで開示を求め、中身の説明も必要となる。また、企業に気候関連の目標設定も求める。目標が科学的根拠に基づき第三者の検証を得ているかどうかや、進捗を判断する指標の開示など幅広い。統一したルールのもとで温暖化ガス排出量などの開示が進めば投資家は比較しやすくなり、企業の選別が進むことが予想される。一方、世界の民間金融機関は、2050年までに投融資ポートフォリオ全体で排出される温暖化ガス排出量の実質ゼロを目指すグローバルな金融機関の有志連合「GFANZ(グラスゴー・ファイナンシャル・アライアンス・フォー・ネットゼロ)」を立ち上げた。世界の銀行や保険、資産運用会社など約450社・団体が参加している。参加機関は今後、①10年間で50%前後の排出量削減②5年ごとの目標見直し③計画の進捗とファイナンスによる排出量の年次開示、などに取り組む。金融機関は投融資を排出量削減につなげる必要があるため、融資や投資を受ける企業にとっては自社の排出量や削減計画の開示圧力が強まることになる。このように、開示を求める動きは世界で広がり、欧米を中心に上場企業に義務付ける動きが進むが、日本でも、金融庁が上場企業など約4000社を対象に、気候変動に伴う業績などへの影響を開示するよう義務付けることを検討している。また、22年4月の東京証券取引所の市場再編で、東京証券取引所が実質最上位となる「プライム市場」の上場企業には、「TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示」が求められる。

これに対して、国内企業は手探りでの対応を迫られているのが現状。国内の事業に専念する企業は、気候変動への基本的な理解があまり進んでいない上、経営資源の乏しい中堅企業ではそもそも情報開示に割ける人員は限られている。中小企業まで含めた気候変動リスクの情報開示を進めていくには、企業の負担を軽減するための国の政策的な支援が欠かせない。

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BCT Monthly report 2021年11月