Monthly rep. 2020年7月 ―行政・企業関連―

今月は、行政・企業関連分野の状況を整理した。地球温暖化防止を目標に、欧州を中心に石炭火力について廃止を打ち出す国が相次ぐなか、日本も『脱炭素』 に向けた取り組みを強化する。経済産業省は、低効率な石炭火力発電所の休廃止を行う方針。低効率とされる約110基のうち9割にあたる100基程度を対象とし、2030年度までに段階的に進める。非効率の石炭火力を削減するため、国が目標設定するといった規制措置や、事業者にインセンティブを与えるなど早期退出を誘導する仕組みを検討する。経産省は低効率型の休廃止を進める一方、高効率型の発電所は維持する方針。従来より高温・高圧で発電のための蒸気を生み出せる「高効率型」への移行を促す。高効率といっても、石炭火力の発電量あたりの二酸化炭素(CO2)排出量は再生エネより圧倒的に多い。1キロワット時あたりの排出量は太陽光や風力が数十グラム。経産省によれば、石炭火力は日本の平均で約900グラムに上る。高効率の設備に置き換えても排出量の削減効果は1~3割程度にとどまる可能性がある。石炭火力に依存し続ける日本に対し、石炭火力は温暖化ガスを大量に排出することから「気候変動リスクを助長する」との国際社会からの批判が強く、脱炭素の流れは「脱石炭発電」へとつながっている。国内の大手金融機関も新設の発電所に資金を出さない方針を打ち出すなど、国内企業の姿勢も変化していることも背景にある。

この石炭火力の見直しは、エネルギー政策全体の見直しと切り離せない。発電量に占める石炭火力の比率は2018年度で32%。政府のエネルギー基本計画が定める電源の最適組み合わせ「エネルギーミックス」が目標とする26%を大きく上回る。原子力発電所の再稼働が進まない状況で、温暖化ガスの排出を2013年度比26%減らす国際公約を実現するには、化石燃料のなかでも温暖化ガスの排出が多い石炭を減らし、再生可能エネルギーを伸ばす必要がある。そのため、経済産業省は、送電網の新設・維持にかかる再生エネ事業者の負担を引き下げるほか、送電網の利用ルールも改め、再生エネに優先的な利用を認める仕組みに切り替える方針。送電可能容量を超えた場合でも再生エネは発電を続けられるようにし、代わりに火力発電に制限をかける。また、経済産業、国土交通両省は、洋上風力発電を今後10年で全国30カ所への拡大をめざす。有望な再生エネルギーとされながら普及しない洋上風力をテコ入れし、年間3~4件を事業認定する。今回の取り組みを軌道に乗せることで、2030年度以降の再エネの構成比率を目標値から少しでも上乗せさせられることを期待したい。

世界的な脱炭素化の機運から、気候変動対策を推進する国際的な活動に参加する日本企業は多くなっているものの、海外企業では、全製品について2030年までに生産段階で排出する温暖化ガスを実質ゼロに抑える「カーボンニュートラル」を実現や、2030年までにCO2排出量を半減し、排出量以上を除去するカーボンネガティブを実現を目指す動きがあるなど、日本企業は、世界の先頭集団からは離されている。環境NGOなどが主導する国際的な活動「サイエンス・ベースド・ターゲッツ(SBT)」で「2度C目標」と整合した日本企業は46社あるが、1.5度C目標の認定は8社。世界では100社を超える。事業で使う電力全量の再生エネ化を目指す企業の国際連合「RE100」への加盟は全世界で232社。そのうち日本企業は33社なので1割強のシェアを占めているが、進捗は遅い。19年末のRE100の報告書によると70社が電力の75%以上を再生エネ化したが、日本企業の再生エネ比率は数%にとどまり、導入が遅れている。ただ、ここに来て、中長期計画でCO2排出量の削減目標を掲げる企業が増えており、大企業を中心に使用電力を再生可能エネルギー由来に切り替える動きが相次いでいる。また、生産時に排出するCO2を実質ゼロに抑える「カーボンニュートラル」を2030年度に達成する目標など、挑戦的な目標を掲げて再生可能エネルギーを導入する大企業や地方企業が増え始めた。地方や中小企業にも気候変動対策の目標を掲げるところも増えてきた。2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロを目指すことを表明した地方自治体数は102になった。中小企業においても、再生エネ100%を目指す中小企業などの団体「RE Action」は19年10月の設立後、参加者は2倍近い62社・団体に増えた。また、大手通信会社が自前の発送電網を整備し、再生可能エネルギー事業に本格参入するなど、脱炭素に向けて民間主導のエネルギー・電力事業の変革も始まっている。

この脱炭素への対応はあらゆる民間企業にとって必須なもので、積極的な取り組みが求められる。そのためには、このような日本企業の脱炭素への取り組みを一段と促し、長期的な成長につながる脱炭素に向けた政策が、今後一層期待される。

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BCT Monthly report 2020年07月