Monthly rep. 2020年11月 ―最新技術・金融分野―

今月は、最新技術と金融分野の状況をそれぞれ整理してみた。国内の建設業は、生産年齢人口の減少や技能労働者の高齢化による就業者不足が予想されるため、新規入職者の確保や生産性向上、働き方改革の実現が喫緊の課題となっている。これに対し、ゼネコン各社は施工ロボットやIoT技術を活用した技術開発を急ぎ、建設現場にロボットを相次ぎ投入している。例えば、ビルでは各フロアで柱とはりを溶接して強度を保つが、この溶接作業を自動化するために、溶接を自動化するロボットが開発された。ただ、現場ごとに柱の種類は千差万別なため、溶接の適切な作業手順を決めるには人がその場で目視する必要があった。そのため、この溶接ロボットでは、溶接する箇所をロボットがセンサーで計測するだけで、角度や隙間を判別。速度などを自動で調整して、はりや柱を溶接する。また、溶接する部材同士の距離や角度を細かく変え、ロボットに無数のパターンを覚え込ませた。さらに1年かけて熟練工の操作を見せ、加減速のタイミングなどを学習させた。結果、センサーで計測すれば最適な溶剤量や溶接速度などを自動で判断できるようになった。AIがアームを制御して、無人かつ24時間連続で溶接作業に取り組めるロボットも開発中。この他、断熱材メーカーなどと共同で鉄骨の耐火材吹き付け作業に特化したロボットを実用化している。ただ、各社で生産する施工ロボットは台数が限られ、量産による開発コストの回収が難しい。このためロボット本体価格が高額となり、普及の障害になっている。使用する協力会社にとっても、各社個別の開発ではロボットの機種が増加し、操作方法を習得することが負担となり、生産性向上の妨げになっている。そのため、ゼネコン各社が開発したロボットや施工関連技術を相互利用や新規ロボットの共同開発を行い、生産コストや研究開発費の低減につなげ、施工ロボットなどの普及加速を目指す取り組みが始まっている。量産化と機種が絞られることで、技能労働者のワークライフバンスの向上や処遇改善、若年層の入職促進にも寄与することが期待される。


金融分野では、ESG(環境・社会・企業統治)を重視する投資マネーが、脱炭素への取り組みで企業を選別する動きを強めている。株式市場では二酸化炭素(CO2)の排出量の増減が時価総額に影響するようになってきた。企業が温暖化の問題に対応しなければ、社会から淘汰され、投資家も損失を被る。強い危機感からCO2排出量の多い世界1800社に集団で書簡を送り、5~15年先の排出目標の設定を働きかけた。米国の年金基金などでは、投資先全体の排出量をゼロにする試みが広がる。企業の対応が鈍ければ、株主総会で取締役選任などに反対票を投じる動きも出てきた。こうした投資家の動きから、株式市場では、いよいよCO2排出量が企業価値を左右するようになってきた。米指数算出会社MSCIの世界約2000社の排出量データをもとに18年まで4年間の企業の排出量の変化を調べたところ、排出量が半分以下となった削減量上位30社の時価総額は17年末比15%増えた。一方、4年間で排出量が2倍以上となった増加量上位30社の時価総額は12%減った。世界の主要企業の排出量合計は18年までの4年間で約5%減った。国別でみると日本は1%強の減少にとどまる。世界では炭素税や排出量取引など政策が企業の背中を押している。


脱炭素で先行するEUでは、50年に域内の温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げる環境分野での持続可能な金融の基準づくりを進めている。環境債による調達資金の使途を明確にしたり、外部評価の取得を義務付けたりすることを検討しているほか、企業にも環境関連の情報開示を求める。この基準を世界に広げ、ESG市場で優位に立つ考え。一方、日本政府は、10月に温暖化ガスの排出を2050年までに実質ゼロとし、脱炭素社会実現を目指すことを宣言。脱炭素に向けた研究・開発を支援する2兆円の基金創設を表明した。2050年の目標達成を後押しする。環境に配慮した経済活動を促すグリーン投資を成長戦略の柱にし、「カーボンニュートラル」を実現する新技術の開発を官民挙げて推進する。


課題は、ESG投資資金をいかに日本国内に呼び込むことができるかである。そのためには、金融業界がさらに動きやすくなるよう、具体的な規制緩和や公的資金の導入などの政策が掲げられる必要がある。企業も脱炭素社会に向けた目標や戦略などESG関連の取り組みを分かりやすく説明する姿勢が求められる。また、投融資が脱炭素の方向に進むためにはアセットをきちんと金銭価値化する仕組みがなければならず、カーボンプライシングが重要になる。今後、導入に向けた積極的な議論が期待される。

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BCT Monthly report 2020年11月