Monthly rep. 2022年05月 ―最新技術・金融分野―

今月は、最新技術と金融分野の状況をそれぞれ整理してみた。建設工事の現場では、人手不足や資材高騰が工事価格に跳ね返ってきている。特に人手不足は深刻で、情報通信白書などによると、公共施設は40年ごろに多くが築60~70年を迎える見込み。点検や工事の需要が増える一方、建設業就業者数はピーク時の1997年から約3割減少。19年に65歳以上が占める割合は10年前の2倍になっており、高齢の人材がいないと現場を回すことができない状況。このままの状況が進めば、10年後には工事自体が行えないことも考えられるという。そこで、今後の活用が期待されているのが、建設用3Dプリンターである。2022年1月に、国土交通省土佐国道事務所の道路改良工事で初めて、建設3Dプリンター製の集水升が設置された。これを皮切りに、22年はあちこちの公共工事で印刷造形する計画が動き始めている。ただ、普及に向けては、複数の課題がある。一般的に3Dプリンターではコンクリートを積み上げて建築する方法が採用されており、鉄筋が使われていない。その結果、現状の日本では3Dプリンターを活用して建物の躯体部分を作ることはできない。また3Dプリンターによる建築は始まったばかりで、実績が多くない点も普及が進みにくい理由の一つ。また、ハードウエアやソフトウエアにおける使いやすさを高めることも必要。誰でも構造物を積層できるようにし、現場の人が「使える」と思ってもらえる製品にする必要がある。ただ、3Dプリンターによって建築を行うことで、従来と比べはるかに作業の効率化やスピードアップが可能。様々な課題はあるが、今後どのように活用が広がるか注目していきたい。

金融分野では、温暖化ガス排出量の実質ゼロを目指す金融機関の有志連合「グラスゴー金融同盟(GFANZ、ジーファンズ)」は、鉄鋼など排出量の多い投融資先企業に脱炭素への計画を提示するよう求める。従来も企業は取り組みを開示しているが内容が一律ではなく、金融機関にとっては比較が難しかった。そこで、正確な情報を把握し、投融資先を含む総排出量の削減を実現させる。金融機関は、融資先などの削減状況を確認する必要がある。近く、脱炭素計画を要求するための草案を公表する。比較しやすいように共通項目で情報を求める見通しで、11月の第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)までに最終指針をまとめる予定。GFANZは、情報などの透明性の確保が目標達成のカギとみている。金融情報会社と組み、企業や金融機関ごとの温暖化ガス排出量や削減計画、計画に対する実績について、誰もが同じ情報が得られるようにする計画。

ESGの情報開示においても、開示強化の波が来ている。欧州連合(EU)は21年3月から金融機関にESG情報開示を義務付ける「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)」を適用。運用会社は会社全体と金融商品のそれぞれでESGの要素をどう取り入れているかを開示する必要がある。さらに23年1月からは詳細な数値を含めたより厳格な開示が義務付けられる。具体的には温暖化ガス排出量や投資先企業の男女賃金格差、化石燃料関連企業への投資割合など18項目の開示が必須になる。森林破壊の対応方針がない企業への投資割合や、投資先企業の事故率など46の追加開示項目もある。数値指標の開示が始まれば、機関投資家や個人は運用会社のESGへの取り組みを横断的に比較できるようになる。欧州で提供するESG商品の対応が不十分とみなされれば、日本でも海外の投資マネーを集められなくなるリスクがある。米国でもESG投資に関する情報開示で統一基準を導入するための規制案が提案された。ESG投資が急拡大するなか、企業や運用会社による「グリーンウオッシング」と呼ばれる見せかけの環境対応を排除するのが狙い。

一方、日本では、東京証券取引所に新設された「プライム市場」上場1841社に気候変動関連情報の開示を求めているが、欧米に比べて、日本はまだ開示基準には踏み込んでいない。実際、日本企業の開示は不十分とされており、ESGマネー流入の妨げとなる恐れがある。たとえばEU規制で必須の開示項目の1つである温暖化ガスの排出量は、金融情報会社のデータをもとに時価総額3億ドル以上の企業を対象に取引網まで含めた排出量の開示状況を調べたところ、欧州企業は6割以上が開示しているのに対し、日本企業は3割にとどまった。日本企業のESG対応が海外と比較して劣っているとは思えないが、排出量をはじめ情報開示は不十分という結果となっている。今後、日本企業には欧州を含め様々な投資家からの開示要請が一段と強まると予想され、対応できなければ、日本企業がESG課題の解決に向けて必要な資金を市場から調達しづらくなる恐れもある。日本企業には、より一層の情報開示への対応が求められる。

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BCT Monthly report 2022年05月