Monthly rep. 2022年04月 ―食・自然―

今月は、食・自然分野の状況を整理してみた。環境省は、2030年までに自国の陸域・海域の少なくとも30%の保全・保護を目指す国際約束である「30by30目標」の国内達成に向けて、「30by30ロードマップ」を策定した。これに併せ、30by30ロードマップに盛り込まれた各種施策を実効的に進めていくための有志連合として、環境省を含めた産民官17団体を発起人とする、「生物多様性のための30by30アライアンス」を発足させ、第1弾として、企業、自治体、NPO法人等、計116者が参加した。30by30の鍵となる OECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)については、アライアンス参加者の協力を得て、認定の仕組みを試行する実証事業を今後開始する予定。同アライアンスでは、参加者は、自らの所有地や所管地内のOECM登録や保護地域の拡大などを目指すことに加えて、自ら土地を所有または管理していなくても、他のエリアの管理を支援、あるいは自治体が自ら策定する戦略に30by30目標への貢献を盛り込むことなどを通じて、30by30実現に向けて協力する。一方、世界では、政財界のリーダーが集う世界経済フォーラムが、自然を優先するビジネスによって30年までに10兆ドルの市場と3億9500万人の雇用創出が可能とする報告書を公表。スマート農業による収穫量増加や屋上緑化、節水、適切な廃棄物処理など自然を保護する幅広い分野に商機があると見ている。こうした機運を受け、自然回復を意味するネイチャーポジティブが世界共通の目標になろうとしている。こうした背景もあり、企業の環境対策でも、生物多様性が重要課題として浮上している。ネイチャーポジティブは「自然に良い影響をもたらす」「自然を優先する」といった意味だが、最近では「自然を損失から回復に転じさせる」と定義付けられようとしている。「森林破壊ゼロ」や「負の影響を半減」など厳しい要求が求められる一方で、自然保全にビジネスチャンスがあり、投資家も企業に自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)への参画を求めており、これまでとは異なる生物多様性保全が企業に求められることになる。

食の分野では、農業の環境負荷低減を目指す「みどりの食料システム戦略」を推進する新法が成立した。農家や食品事業者、消費者らの理解・連携を基本理念に、化学肥料・農薬低減や有機農業などの実現に取り組む農家を融資や税制で支援する仕組みを創設する。農薬や化学肥料をできるだけ使わない栽培方法を広めるため、技術開発を後押しし、現場への導入を促す。2050年までに化学農薬と化学肥料の使用量をそれぞれ50%と30%減らし、耕地に占める有機農業の面積を4分の1に増やすなどの目標を掲げている。農薬を減らせば、土中の微生物を含む多様な生態系を守ることに貢献する。植物がそのまま吸える化学肥料ではなく、微生物が分解することではじめて植物が吸収できる形になる有機肥料を使うことも同じ。加えて有機肥料には、炭素を一定期間土の中に貯留するという機能もある。化学肥料と違い、一般に成分として炭素を含んでいるため脱炭素につながる。国は新法の成立を受け、環境への負荷を減らす食料生産の取り組みを推進するための基本方針を作成。技術開発で国や自治体、民間の研究機関、大学が連携を強めるのに必要な措置を講じる。有機肥料の一種で、地力の向上に役立つ堆肥の製造や利用を含め、化学肥料の削減につながる技術の導入なども支援する。

ただ、日本で有機農業は数十年の歴史があるにもかかわらず、ほとんど普及していない。この背景には,有機農業は除草剤や農薬を使用しない分、これまでの農法と比較し天候や病害虫などの自然条件に影響を受けやすく、農作業の負担が大きいことがある。有機農業を持続的に行うためには,労働力や販路の確保といった経済的な側面に課題が残る。これに対し、有機農家の負担を軽減するための有効な手段の一つとして、地域支援型農業CSA(コミュニティー・サポーテッド・アグリカルチャー)がある。欧米で盛んな農場の運営方法で、1年もしくは半年単位で会費を前払いすることにより、天候不順などによる不作のリスクを消費者と農家の双方が共有する。消費者会員が、援農など農場運営に携わることで喜びや負担を分かち合い、そしてその成果として,農家は新鮮で安全な有機野菜を提供し、消費者はその野菜を享受する仕組み。国内にも、いくつかのCAS型の農場があるが、その一つである神奈川県の農場では、この取り組みを広げるために、地域住民が楽しく、気軽に参加できるよう工夫している。例えば育苗ハウスの中で、落ち葉に米ぬかや水を混ぜて足で踏み、微生物による分解を促進させる。そこで発生する熱を育苗に利用する。堆肥づくりの一環でもあるこの作業は、会員たちが音楽を聴きながら進める。既存の農家からは非効率に見えても、農場を「憩いと学びの場」と考える会員たちには楽しい作業になっている。大量流通で遠くから運ばれてくる食品を買う場合、どうしても「安さ」に目が行きがちになる。だが生産との距離が縮まれば、「支えること」も消費者にとっての価値になる。今後、この取り組みがもっと全国に広まって行くことを期待したい。

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BCT Monthly report 2022年04月