Monthly rep. 2022年01月 ―行政・企業関連―

今月は、行政・企業関連分野の状況を整理した。政府は、エネルギー基本計画を閣議決定し、温暖化ガスの排出削減目標も第26回気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で改めて表明した。そして、カーボンニュートラル実現に向けた実行のための政策として、経済産業省は、企業が二酸化炭素(CO2)の排出量を売買できる新たな取引市場「GX(グリーントランスフォーメーション)リーグ」を創設し、2022年度の実証を開始することを表明した。取引市場の創設により再生可能エネルギーや省エネ投資を後押しする狙いがある。また、企業の新たな取引市場への参加条件として、部品調達先の脱炭素に向けた支援を求める方針も示された。参加企業だけでなく供給網全体での対応を求めるのは、製品の部品供給を担う中小企業には排出削減を進めるためのノウハウが乏しいためで、サプライチェーン(供給網)全体で温暖化ガス排出削減につなげたい考え。参加企業には自らの削減量の公表も求める。この経産省が制度設計を進める排出量取引市場は、企業が自主的に参加する仕組み。企業が掲げる目標より排出量の削減が先行すれば売り手として収益を得られ、自社だけで削減しきれない企業が買い手となる。経産省は参加企業に対して今後設ける「GXリーグ」への参画を求める。リーグに入る条件として①50年の脱炭素に賛同して30年の排出削減目標を掲げ、実現に向けた戦略を描く②進捗状況を毎年公表する③部品調達先の50年の脱炭素へ向けた取り組みを支援する、などが盛り込まれている。さらに、企業の参加を後押しする制度も設ける。この取引などを通じCO2の排出削減で効果を上げた企業に対し、補助金や政府調達で優遇措置を検討する。2023年度に導入をめざす。取引市場への参加は強制ではないため、企業が参加するインセンティブにする狙いがある。ただ、欧州の同制度では企業に目標達成を義務付けているが、日本では未達でも罰則はないため、今後の実効性が課題となる。

企業の脱炭素の取り組みは、以前にも増して加速している。大手自動車グループの部品メーカーでは、自社の温暖化ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の取り組みを急いでいる。2030年にCO2の排出を15年度の半分に減らす計画を策定する。これには、環境対策が自動車メーカーの評価基準になりつつあることが背景にある。CO2排出をこれまで「極力減らす」との考え方だったが、工場からの排出を50年にゼロにする目標を設定し、30年には15年度より50%減らすとともに、エネルギー消費に占める風力発電など再生可能エネルギーの導入率を50%まで高める計画。大手自動車メーカーの複数のサプライヤーでは、温暖化ガスの抑制でも、CO2を排出しないことが評価されるようになってきている。

また、1社での対応だけでなく、サプライチェーン全体での取り組みも課題になっている。企業の温暖化ガス排出量を測定する国際基準GHGプロトコルでは、自社の排出を「スコープ1」、電気やガスの使用に伴う分は「スコープ2」、取引先が出す分は「スコープ3」と定義づけられる。東証1部に上場する企業は、企業の自然環境や社会への責任を重視する機関投資家が増え、温暖化ガスの排出でも「スコープ3」の管理まで求められる。現在、金融庁は、上場企業など約4000社を対象に、温暖化ガス排出量や気温上昇に伴う損失影響の試算などを開示するよう義務付けることを検討しており、1部以外の上場企業にも対象が広がる可能性がある。特に、商社では、仕入れ先メーカーの排出が多くなりがちで、スコープ1~3に分けると98%がスコープ3というところもあり、取引先のCO2排出量の「見える化」に動き始めている。見える化したデータを元に、仕入れ先メーカーに脱炭素に向けた働きかけを始めている。また、国内の製造業大手では、サプライチェーン全体のCO2の排出量を2050年度までに実質ゼロにすると発表し、21年度から調達先に対してCO2の削減計画の策定の要請を始め、主要取引先と中長期の計画作りを始めているところもある。このように、カーボンニュートラルへの取り組みは、大企業を中心に対応が進んでいる。しかし、脱炭素の波は、サプライチェーンを支える中小企業にも着実に及びつつある。今や、カーボンニュートラルは、企業の社会的責任となっており、今後ビジネスを進めていく上で不可欠なものになりつつある。

一方、「見える化」をビジネスにつなげようとする試みも出てきている。物流を扱う企業の物流情報サイトでは、輸送費用の算出といった機能にカーボン算出機能を追加し、出発地と到着地を入力すると、例えば飛行機より船で運べばCO2排出量が10分の1ほどになることがわかる機能を提供している。そして、積載率が高い自社のコンテナを使うとCO2を減らせることをアピールしている。このように、脱炭素の取り組みを単純なコストではなく、会社の成長につなげるアイデアとして広げていく積極的な姿勢が、今後の企業には求められる。

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BCT Monthly report 2022年01月