Monthly rep. 2021年7月 ―行政・企業関連―

今月は、行政・企業関連分野の状況を整理した。2050年のカーボンニュートラルに向けて、国や自治体、企業が取り組むべき気候変動対策を定めた改正地球温暖化対策推進法が成立した。条文に基本理念を新たに設けて50年ゼロの方針を明記し、将来にわたる政策の継続を担保し、投資を呼び込む。自治体や企業の脱炭素に向けた取り組み状況を「見える化」する仕組みにも重点を置いた。再生エネの導入や排出削減の努力を比較しやすくし、自治体や企業の競争を加速させたい考え。市町村には再生エネ導入目標の開示の努力義務を課す。都道府県や政令市などに対して、再生エネの導入目標を設定し開示することを義務づける。また、目標達成に欠かせない再生エネの導入拡大に向けては、再生エネ事業を誘致する仕組みとして「促進区域」を設ける。市町村が再生エネ発電所の建設地を絞り込み、住民の意見を聞いて促進区域を設定する。市町村は再生エネの発電所をつくっても安全で経済性を見込めると判断した地域を絞り込み、近隣住民などにも事前了解を得た上で区域を設定する。

さらに、政府は、温暖化ガス排出量削減の中間目標として、2030年に13年度比46%削減するという方向性を示した。15年に決定した「13年度比26%削減」を大きく引き上げるもの。内訳は、再生可能エネルギーの大量導入などで家庭部門は66%減らし、工場などの産業部門は37%の削減を見込む。日本は14~19年にCO2換算で年平均3千万トン以上のペースで削減が進むが、目標達成のためには、今後4千万トン以上を毎年削減し続けねばならない。ただ、企業にとっては、カーボンニュートラルに向けた対応が、取引先や金融市場からの企業評価を左右する状況になっており、日本を代表する企業は、国より積極的な目標設定や気候変動対策を進めている。

最近では、小売り各社の脱炭素化に向けた動きが広がってきた。小売り大手では、大型商業施設の全店舗について2025年までに使用電力を全量再生可能エネルギーに転換する。環境配慮意識の高まりを背景に脱炭素の動きを一段と加速する動きが見られる。日本の小売り各社の動きは他の業界に比べて動きが鈍かったが、地球環境に配慮した商品を選別する「エシカル消費」が急速に広がるなか、各社はSDGsに対応した店舗運営を強く求められている。

脱炭素に向けた企業の対策の次の焦点は、自社の事業活動からの直接の排出量に加え、サプライチェーンやバリューチェーンからの取引先の排出量の削減である。国内の大手自動車メーカーは、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラル達成に向け、主要1次取引先に対し、2021年のCO2排出量の削減目標として、前年比3%減を要請した。産業の裾野の広い自動車メーカーの取り組みは、中小メーカーの脱炭素化を促すきっかけになると考えられる。すでに、欧州の自動車メーカーでは、部品供給メーカーに対し、納品部品は100%再生可能エネルギーを使用して生産することを義務化することを表明しているところもあり、今後、日本においても取引先に対するCO2排出量の削減要求は強まっていくことが考えられる。

このような脱炭素に向けた動きの中で、50年のカーボンニュートラルを目標に掲げる自治体は400を超えた。ただ、現状では「宣言ベース」にとどまるところも多く、大半は具体的施策を模索中である。そのため、政府は、脱炭素を加速する政策として、全国の100カ所以上に「脱炭素先行地域」を設けて集中的に脱炭素への取り組みを進める「脱炭素ロードマップ」を発表した。先行地域は都市部の市街地から農村や漁村、離島までが想定され、地域資源を最大限活用し、2030年までに脱炭素の達成を目標とする。実施は地方自治体や地元企業、金融機関が中心となって行い、国の地方支分部局が縦割りを排して資金面も含めて支援する。これにより国は再生可能エネルギーを中心に地域での経済を循環する仕組みをつくり、雇用を創出し、成功モデルを全国に横展開していく意向である。環境省は、人口千人の地域では、太陽光パネルの設置や建物の省エネ化といった設備投資で約40億~100億円の経済効果があると試算する。これに加えて、売電収入や省エネによるコスト削減分で年間約3億~5億円のメリットがあるとしている。

しかし、再エネを導入拡大する上で、人材不足や財政難に悩む自治体は少なくない。国の強力な支援が欠かせない。住民の理解と協力を得るには、メリットを目に見える形で示していく必要がある。例えば、ドイツでは、観光客を呼び込むため、風力発電の収益で国内最長のつり橋を架けた。観光の振興でレストランやカフェができ、空き家は従業員の住居として使われるようになるなど、再エネの取組みが地域の経済対策、地方創生にも繋がっている。小規模町村では、少子高齢化が進み、活力が失われつつあるが、都市部と比べ再エネ導入の潜在能力は高いとされる。この特徴を活かし、脱炭素を追い風に地域の特性を活かした持続可能で魅力ある地域づくりが各地で進められることを期待したい。

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BCT Monthly report 2021年07月