Monthly rep. 2021年6月 ―ライフスタイル・信号処理・その他―

今月は、ライフスタイル・信号処理・その他分野の状況を整理した。総務省によると、2020年の東京都からの転出者は前年から4.7%増え、2014年以降最大となった。新型コロナ禍でテレワーク環境などの整備が進み、オフィスから離れた場所に居住地を選ぶ人が増えている。この機を捉え、自治体が連携して一極集中の是正や地方創生を推し進めようと、全国約600の地方自治体と国土交通省など4府省が共同で、都市と地方など2つの生活拠点を持って暮らす「2地域居住」を促進する官民協議会を立ち上げた。地方の自治体は定期的な居住で交流人口が増えるだけでなく、将来の移住も期待できることから、空き家などを利用した住宅や通信環境の整備、都市での仕事のスキルを地方で役立てるダブルワークのあっせんなどさまざまな取り組みを進めている。二地域居住は、ゆとりある生活の実現や企業の働き方改革、福利厚生に資すると同時に、受け入れ地域の遊休地解消や人手不足解消などのメリットが見込まれる。一方で、2軒目の住宅購入には審査のハードルが高くなる住宅ローンのあり方や、東京と地方間を公共交通機関で移動する際に定額制にできないかなど、国の施策や業界に関わる課題も見えてきた。協議会ではこうした課題を整理し定期的に提言していく。

また、政府は、2021年度の地方創生の基本方針で、新型コロナウイルス禍で広がったテレワークで「転職なき移住」を進め、地方で働く人を増やす方針を掲げる。24年度末に1000の地方自治体が、サテライトオフィスによる企業進出や移住を支援する体制を整える。政府はこの機会を捉え、テレワーク環境の整備を急ぐ。地方でのサテライトオフィス開設を後押しする交付金制度を創設し、自治体による整備や、既存施設への企業誘致などを財政面で支える。実際、地方県では、大都市圏の企業に勤めたまま県内に移住する「転職なき移住」を認める企業に対して立地企業に準じた補助金を交付する新制度の検討に着手した。テレワークを推進して社員が自然豊かな生活環境に身を置きながら働ける体制を作ろうとする企業を支援する。現在の収入やキャリアを維持したままやってくる移住者を受け入れることで、地域活性化につなげたい考え。

地方移住や二地域居住が進めば、地方都市が大都市の企業・従業員と、様々な形で連携を図ることで、「企業のふるさとづくり」にまで広げていくことが期待される。実際に、地方都市に研究拠点を設置しつつ、その地域で進行しているスマートシティ戦略に参画するIT事業者や、地域活性化や地方創生に貢献する例などが出てきており、従来の企業誘致よりも、企業が地域により深く入り込む形になっている。今後、居住地や勤務地の自由度の高い労働者が増え、企業がサテライトオフィスを設置するだけではなく、地域と連携して新たにプロジェクトを立ち上げ、地域課題の解決に取り組む例が広がっていくことを期待したい。

信号処理分野では、難しい外科手術や高度な建設作業など熟練者の動きをまねて働くロボットを制御する人工知能(AI)の開発が、国内外で進んでいる。人が経験などから習得した上手な技だけを選んで学び、再現する。熟練者の技は、複雑に考えて臨機応変に対応しながら体や手を動かす。AIにこの技を強化学習で学ばせようとすると、職人の動きの画像データなどを大量に入力しなければならず、学習に年単位の時間がかかってしまう。そこで、考案されたのが、熟練者がとらない動きは避け、成功した動きだけを学ぶ「逆強化学習」と呼ばれる手法。この手法を使うことで効率が大幅にアップし学習期間を数日に短縮できる例もある。このAIを使って開発した熟練ロボットは、人と協働し、熟練技能者の労働力不足の解消やコスト削減につながると期待される。

このように、AIを使った製品開発やサービスの普及が進む中、負の側面も出始めている。米国では、開発したチャットボットで公開直後に人種差別的な発言を繰り返すようになり、公開を取りやめた例など、差別助長などのリスクを無視できなくなってきた。AIが広く使われるためには、社会のルールや倫理に反しないことが求められる。そこで、AI開発を進める企業などがAI倫理の策定に取り組む動きが広がっている。AI倫理は、AIによって不当な差別やプライバシーの侵害、人命に対する脅威などの問題を起こさないようにするための指針となるものである。金融や与信、医療など慎重な判断が必要な分野では、とくに判断基準の透明化が欠かせない。AIの判断の根拠を示せるようにする「説明可能なAI」の開発に注力している国内IT企業もある。

欧州連合(EU)が、AIの包括規制案を公表するなど、国レベルの動きも出ており、今後、AIが社会で安心して使われるためには、産官学が連携し、社会的に合意を得られるAI倫理を整備する必要がある。

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BCT Monthly report 2021年06月