Monthly rep. 2021年4月 ―食・自然―

今月は、食・自然分野の状況を整理してみた。生物多様性を2030年までに回復させようという様々な取り組みが世界で加速している。今年10月に開催予定の国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)では、30年までの生物多様性に関する新国際ルール「ポスト愛知目標」を採択予定であるが、前回の愛知目標の多くが未達成に終わったことから、今回のポスト愛知目標は数値目標を多く盛り込み、企業や金融機関による参画を強く促すような内容になるものと見られる。イギリスは、生物多様性に関して、生態系の劣化を食い止めるためには生産と消費のパターンを見直すとともに、金融機関の意思決定に自然資本の価値を組み込む変革が必要だと提案している。欧州連合(EU)も、新成長戦略「グリーンディール」で、生物多様性に関係する「生物多様性戦略2030」を発表。この戦略は、30年までに自然を回復軌道に乗せることを目的としており、企業の意思決定に生物多様性の価値を組み込む基準づくりを進めることや、EUの気候変動対策予算の25%の大部分を「生物多様性と自然に基づく解決策」に投資することを盛り込んだ。このような状況の中、生物多様性を重視して金融の流れを変える動きが、欧州主導で始まっている。昨年の国連総会では、企業が自然への依存や影響、リスクに関する財務情報を開示する枠組みをつくる「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」の非公式作業部会が発足したが、「生物多様性のための金融誓約」も欧州委員会の主導で発足した。これは金融機関が投融資を通して生物多様性へのインパクト評価を行うという誓約で、誓約した金融機関は、ESGの方針に生物多様性の基準を盛り込んで企業と対話して働きかける。そして、投融資の際には生物多様性へのプラスとマイナスの影響を評価し、その結果を開示することを24年までに実施しなければならない。現状、誓約機関の多くが欧州の金融機関で、欧州主導で生物多様性の進捗を測る基準や開示の枠組みづくりが進んでおり、ルール作りに乗り遅れないためにも日本の積極的な参加が求められる。

食の分野では、EUが、公平で健康な環境配慮型の食料システムを目指す「農場から食卓まで戦略」を発表した。同戦略が取り組む主な領域は、持続可能な食料生産、持続可能な食品加工と食品流通、持続可能な食料消費、食品ロス発生抑止である。数値目標として、2030年までに殺虫剤の使用を50%削減、化学肥料の使用を少なくとも20%削減、農地の25%を有機農地に転換することなどを掲げている。日本でも、農林水産省が、今年の3月、農林水産省は食料や農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーション(技術革新)で実現する「みどりの食料システム戦略」の中間まとめを発表した。農林水産省は5月までに「みどりの食料システム戦略」を策定し、6月のG7サミット、7月の国連食料システムサミットの場で発表したい考え。戦略では、2050年までに化学農薬の使用量を2050年までに50%減。輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%削減、耕地面積に占める有機農業の面積を25%(100万ヘクタール)に拡大する目標が示された。目標年次が50年である点は、欧州と比べ長い時間軸の設定となっている。だが、有機農業が一般的な技術になりつつある欧州と違い、日本の有機農業の取り組み面積が現状0.5%(18年時点)であることからすると、25%というのは野心的な数値となっている。課題となるのが、生産性の向上である。湿度が高くて暖かい日本は病害虫や雑草が多く、農薬を減らすのが欧州よりもはるかに難しい。化学肥料や農薬を使わない場合、通常よりも手間やコストがかかり、生産量が減ってしまう。有機農業推進法が制定されて以降、様々な調査や研究が行われているが、現状では、有機農業の面積を広げられる画期的な技術はいまだに開発されていない。どの地域でどの品目をどう作れば、広い面積での有機栽培が可能になるかを、農家や機械メーカー、研究機関が具体的に検討することが必要になる。実際、農機具メーカーが、自治体と連携して、先端技術を活用した農業と有機農業の推進する取組みが始まっている。有機農業は農薬や化学肥料を減らす分、水管理や除草などできめ細かな管理が必要になる。人手コストの上昇や手間を、メーカーの先端技術で解決しようとしている。

欧州では、学校給食や公共施設の食堂での有機農産物の提供も進んでおり、有機の給食のノウハウ共有という形での自治体間ネットワークも存在する。資源を大切にする農業と、そうした農業から生まれた農産物を積極的に買い支える仕組みを確立することが必要になる。生産コストの一部を政府が補塡する仕組みを設けることで、有機農産物を消費者に安く提供できるようにすることなど政策的な支援も欠かせない。また、生産者だけでなく、消費者の意識を変えることも重要になる。野菜や果物を買う時、見た目や形がきれいなものをつい選びたくなるが、農薬の中には味や栄養には影響がないものの、「見た目」をよくするためだけに使われているものもある。有機農業の拡大には、私たちの行動も含め、さまざまな課題を乗り越えていく必要がある。

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BCT Monthly report 2021年04月