Monthly rep. 2020年5月 ―最新技術・金融分野―

今月は、最新技術と金融分野の状況をそれぞれ整理してみた。新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり物流業界の需要は増えている。この需要増に対応するため、自動で家まで荷物を届ける宅配ロボットによる無人宅配サービスの検証が始まっている。この宅配ロボットは、最後は人がロボットから荷物を受け取る設計のものが多い。ただ、物流業界が抱える大きな問題として、荷物の再配達があるが、受け取る人がいない場合、荷物は持ち帰らなければならないため、このような宅配ロボットでは、再配達の削減につながらない。その再配達の解決策として『置き配』や『宅配ロッカー』を使った配達手法が増えているものの、オートロック付きのマンションでは置き配に対応できなかったり、宅配ロッカーを設置していてもロッカーが埋まっていて使用できないといった課題があった。そこで、国内のスタートアップ企業が、この課題に対応するロボットを開発している。このロボットは集合住宅の玄関内に配置して使用することを想定している。ロボットが自動ドアを開けて出てくるため、オートロック付きのマンションにも置き配が可能になるほか、宅配ロッカーとは異なり配達員がいつでも荷物を預けられるため、再配達問題の解決に向けた効果が期待できる。走行速度は時速1キロ以下だが、オートロックが設置された集合住宅を想定した実証実験では、複数の荷物を配達員から受け取り、自律走行で1階と2階へ宅配した。実用化に向けては、走行速度や積載重量、配送側とのインターフェイス、ドアに沿った位置に荷物を置くのが難しいなどの課題があるが、基本的な技術については実用化の条件をクリアしており、早期の実用化が期待される。
金融分野においては、コロナ危機のなかでもESG(環境・社会・企業統治)投資の流れは止まらない。国際金融協会(IIF)によれば、ESG格付けなどに基づいて投資する株式上場投資信託(ETF)への資金流入額は、2020年1月~4月8日までに510億ドル(約5兆5000億円)と、すでに昨年1年間を30%ほど上回った。そして、世界最大の米国資産運用会社が、経営戦略を転換しESGを軸にした運用を強化すると表明した。投資先企業が直面する気候変動リスクについての情報開示を求めるほか、2020年半ばまでに石炭関連会社への投資を大きく減らす。その背景には、気候変動が企業の長期的業績を決定する主因になりつつあり、ESGを重視しなければ、経済全体の中長期の成長がおぼつかないとの認識がある。また、世界の大手銀行も脱炭素にカジを切り始めた。国連が2021年3月までに責任銀行原則(PRB)に基づき投融資取り組みの報告を求めたのがきっかけ。英国の銀行は50年までに投融資を通じた温暖化ガス排出量ゼロを打ち出し、豪銀行も燃料炭融資を停止する。銀行が厳格な融資に動き始めた潮流は3つある。1つは銀行自身の責任が問われ始めたこと。19年9月に始まったPRBは当初の署名銀行に対し、来年3月を期限に投融資が社会に与えるプラスとマイナスの影響を点検し、パリ協定などと整合的か実施状況の開示を求めた。2つ目は株主からの圧力。英国の銀行が排出量ゼロを掲げたのは、NGOの株主提案がきっかけ。日本でも株主提案を受けたメガバンクが石炭火力発電向けの新規融資の停止を発表。投資家は、気候変動は最大の市場リスクと捉え、投資先に脱炭素への行動を求める。3つ目は金融当局や中央銀行の姿勢。自然災害の被害や産業構造の変化による資産価値の下落は金融システム上のリスクになりかねないとの考えがある。
このような状況に対して、企業側はこれまで以上にESGの取り組みを進める必要が出てきた。企業も、ESGなど非財務情報の開示を拡大している。2019年度は大手電機メーカーなどが財務と非財務の両方を網羅した「統合報告書」を新たに発行し、発行企業数は500社を超えた。財務情報は短期的な業績予測には役立つが、長期的な視点で投資先企業を選定するESG投資では、長期ビジョン、事業戦略、リスクなどの非財務情報の重要性が高くなることから、財務情報と非財務情報を統合して、経営の実態と将来ビジョンや事業展開の方向性を開示した統合報告書を発行する企業が増えている。これは、企業の価値創造プロセスを財務情報と非財務情報の両面から説明するコミュニケーションツールとなる。統合報告書では、SDGs(持続可能な開発目標)を関連づけ、存在意義を強調する企業が多い。ただ、SDGsの理念は未来志向。企業に求められるのは、2030年の「あるべき姿」を起点として、いま取り組むべき課題と戦略を考えるバックキャスティング思考である。そして、投資家に対して未来の「あるべき姿」を説明するために、企業は価値創造プロセスを記載した統合報告書を活用し、サステナブルの視点から長期的な価値創造ストーリーを伝えていくことが、今後期待されている。

詳しくはこちらへ↓

BCT Monthly report 2020年05月