Monthly rep. 2020年10月 ―食・自然―

今月は、食・自然分野の状況を整理してみた。水産庁は、漁獲量に制限を設ける「数量管理」制度を2021年度以降、本格的に導入する方針。水産資源を保護して将来の漁獲量の確保を目指す。拡大するのは、欧米では一般的な「漁獲可能量(TAC)管理」と呼ばれる規制制度。国内漁業者を対象に、改正漁業法の20年12月の施行に合わせて本格導入する。21~23年度にブリやマダイ、ホッケなど11種、23年度にベニズワイガニなど4種を追加する方針で、20年度内に正式に決める。TAC制度では、資源の回復具合に合わせて漁獲可能量を変化させる。TAC制度の本格導入と合わせ、水産資源の状況を的確に把握するための科学者らによる資源調査の対象魚種も、これまでの50種から23年度には200種程度に増やす。漁獲量の管理もきめ細かく定め、10年後に全国の漁獲量を4割増やす計画。科学的な知見に基づき、水産資源の回復や維持をめざす。課題は、多種多様な魚の資源状況をいかに正しく把握できるかにある。資源管理を成功させるには、現場の漁師たちの理解と協力が欠かせない。今秋から全国の漁師に協力を仰ぎ、船や網にセンサーを付ける取り組みも始まった。海水温や塩分濃度などの海洋情報を幅広く集める。アメリカではすでに500系群の魚について管理ができているという。魚を増やす好循環を生み出すためにも、この取り組みが加速していくことを期待したい。


国連は、2020年までの国際的な生物多様性の計画「愛知目標」について達成状況をまとめた。計画で掲げた20個の目標で完全に達成されたのは一つもなかった。愛知目標は、2010年に開かれた生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で決まったもので、国際社会が20年までに生物多様性を守るための行動として条約に加盟する国々に求めた。この10年で特に状況が悪化した目標もある。ひとつは森林破壊で、愛知目標では「森林の損失速度を少なくとも半減させる」としたが、森林減少は止まらず一部の地域は逆に加速している。ブラジルや東南アジアなどの熱帯雨林で伐採が続いている。また、15年までにサンゴ礁などのぜい弱な生態系を悪化させる要因を食い止めるとしたが、海水温の上昇や人間活動による富栄養化などでサンゴの白化現象が世界各地で起きている。報告では絶滅リスクはほかのどの生物に比べても急速に高まっている。達成できなかった原因のひとつには地球温暖化による気候変動の影響がある。大規模な森林火災や砂漠化、海水温の上昇などの異常気象をもたらし、急速な環境変化が多くの生物にとって脅威となっている。


日本では生物多様性に関し、経団連が6月に保全に向けた行動指針「生物多様性宣言イニシアチブ」をまとめた。企業活動がグローバル化するなか、原材料の調達などで生態系を考慮した活動が持続可能な社会を実現するために重要だとした。このイニシアチブには236社・団体が参加する。製造業のほか金融機関など幅広い業種が名を連ねた。経団連が19年秋、約1800社を対象に実施した調査では、経営理念に生物多様性保全を盛り込んでいると答えた割合は75%。COP10が開かれた頃の09年度(39%)からほぼ倍増した。ただ、「多様性に配慮する」といった定性的な目標を定めたり検討したりしている企業は約7割まで増えたが、数値目標を定め、客観的な指標で達成を評価している企業は半数強にとどまる。


一方、国連機関などは今年7月、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)を発足させた。TNFDは「企業の自然資本と生態系サービスに関連するリスクと機会を適切に評価できるようにする」ことを目指す。「自然資本」とは「人々に便益のフローを与える動植物、大気、水、土壌、鉱物のような再生可能あるいは再生不可能な天然資源の蓄積」を指す。もし自然資本が著しく劣化して生態系サービスが断絶するような事態が訪れたとき、企業経営にどのようなリスクが生じるか、という問題提起がTNFDの起点にある。自然資本を拡充することに貢献できる企業は事業機会を有する、という前向きな発想も含まれている。TNFDの本格的な活動は、国連生物多様性サミットで非公式ワーキンググループが正式に発足して始まる。世界的にサプライチェーン(原材料の供給網)が生態系に及ぼす影響を考慮するなど持続可能性への意識が強まっており、日本企業にも今後、自然資本の劣化が経営に与える影響やリスクを把握して、投資家に向けて情報開示していくことが求められるようになる。


人間社会は生物や自然環境から計り知れない恩恵を受けている。愛知目標の「未達成」という厳しい現実を受け止めて、定性的な目標ではなく現実的な取り組みが今求められている。

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BCT Monthly report 2020年10月