Monthly rep. 2020年4月 ―食・自然―

今月は、食・自然分野の状況を整理してみた。2020年は、国連の会議で生物を守る新しい世界目標が決まることから、「生物多様性のスーパーイヤー」と言われている。現行の枠組みは、COP10で採択された「愛知目標」で20年が最終年となる。しかし、温暖化対策とは異なり、生物多様性の取り組みは定量化しにくく大きな成果を残せなかった。新しい目標は現在の「愛知目標」の後継となる。このポスト愛知目標の草案には3つの特徴がある。1つ目はより実効性を持たせるため、数値による定量目標を多く盛り込んだこと。2つ目はIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)報告書が指摘した生物多様性の5つの脅威、「土地利用」「外来生物」「汚染」「乱獲」「気候変動」への対策を盛り込んだこと。3つ目は最終年が同じ30年のSDGsと整合性を取ったこと。加えて、長期目標「2030年・2050年ゴール」を初めて設けた。30年までに生物多様性の損失を実質ゼロにし、50年までに20%以上向上させるという目標を示した。30年の行動目標である「ポスト愛知目標」は20の目標から成り、3つに分類される。目標1~6はIPBES報告書が指摘した生物多様性の脅威への対策。目標7~11は自然の恵みを人々が持続可能に利用していくことを促す目標。SDGsの食料安全保障や水へのアクセスの目標と整合性を取る記述になっている。目標12~20は国や企業、消費者による解決手法を示すもの。生物多様性の保全には経済、法律、人々の行動変容などの社会変革「transformative change」が必要だとしている。例えば、目標14は「サプライチェーン全体で、経済セクターを持続可能な形態に改革し、30年までに生物多様性への負の影響を50%以上削減する」というもの。影響の測り方はまだ示されていないが、生物多様性方針の策定やインパクト評価を実施する企業・団体数が指標として提案されている。日本企業もこれまでとは次元の異なる生物多様性保全の対応が求められると考えられる。
農業分野では、スマート農業に注目した。農林水産省によると、農業就業人口は2019年2月時点で168万人。10年間で約100万人も減少している。さらに、65歳以上の高齢者が70%を占めている状況である。担い手の不足と高齢化は、1人当たりの作業面積の拡大に直結し、経営環境は一層厳しくなっている。そうした背景から農林水産省は、19年度から「スマート農業実証プロジェクト」を開始し、全国69地区で展開。実際にITやロボットを農家に体感してもらい、研究開発にフィードバックさせるのが狙いである。2年目の20年度はさらに採択件数を増やし、合計121地区で実証を展開する。
スマート農業実現に向けたロボット農機では、直進キープ機能付き田植機や、自動走行トラクター、自動収穫機などの開発が進んでいる。ただ、農機の自動走行は、人の監視下でないと運用できないという規制があり、有人の農機で作業を行いつつ、無人の農機を監視するといった使い方で効率を上げる必要がある。そのため、狭い農地が点在する地域では、農地から農地への移動に手間がかかって、自動運転での効率化は困難である。集約化が進んでいるような地域でも、離農により作付けされなくなった農地が、それぞれ別の担い手に受け継がれて、モザイク状に点在している地域は珍しくない。自動運転の農業機械の利点を十分生かそうとするなら、農地の集約化も進めていかなければならない。中山間地域では、圃場は狭いため、大規模農場向けの農機では、効率化は難しく小回りの利く農業機械の開発が必要になる。関東は、平地が多く集約化しやすいが、関西、中四国地方は中山間地が多く、九州では畑作が中心で地域によって状況が異なる。そのため、地域の状況に合わせ適切なロボット農機をどう投入できるのかが今後の普及のカギになる。また、高い導入コストをどう回収するのかも今後の大きな課題である。この他、スマート農業では、AIやICTの活用による作業の自動化・省力化や、ビックデータの活用などが可能になる。つまり、作業の効率と、適正化がポイントとなるため、肥料や農薬の使用量が減少したり、ビニールハウスの温度の適正化による石油使用量の減少が可能になったりと、結果的に環境への負荷が減ることが期待される。実際、ドローンで圃場を撮影し、AIにより病害虫を予測して、必要な箇所へピンポイントに農薬を散布することで、作られた米の残留農薬が不検出、さらに削減対象農薬の使用量を大幅に減らすことができたとの報告がある。
スマート農業は、自動農機などによる作業の効率化や生産性の向上といった点が注目されるが、環境負荷の低減や環境保全にも貢献できると考えられ、持続可能な農業を実現するためにも、今後の普及に期待したい。

詳しくはこちらへ↓

BCT Monthly report 2020年04月