Monthly rep. 2021年1月 ―行政・企業関連―

今月は、行政・企業関連分野の状況を整理した。政府が掲げる2050年の温暖化ガス排出量実質ゼロの実現に向けた、工程表が明らかになった。洋上風力や水素など14の重点分野を定め、課題と対応策をまとめた。再生可能エネルギーの比率は、自動車の電動化などで電力需要が30~50%膨らむと想定され、現状の3倍の50~60%に高めることを示した。30年代半ばまでに軽自動車も含めた新車販売をEVやハイブリッド車(HV)といった電動車にする。ただ、電動化が難しいバスやトラックなどの商用車は21年に結論を先送りした。電動車の普及の課題はコストをいかに下げるかで、コスト増の主な要因である蓄電池の価格を30年までに1キロワット時あたり1万円以下に下げることを目標にする。


洋上風力発電は、30年までに1000万キロワット、40年までに3000万~4500万キロワットとする導入目標をめざす。洋上風力発電は、適地が偏在するため需要地まで効率的に送電するための系統インフラも整備し、21年春までに案を具体化する。直流送電や海底ケーブル開発も検討する。また、再生可能エネルギーの拡大に向けた規制改革も行う方針。水素は、火力発電での利用を想定し50年に2000万トン程度の消費量を目標に掲げた。現在、水素のコストは、天然ガスの数倍のコストであるため、需要の拡大によって同等以下に抑えられるかが課題となる。原子力は、現在の原子炉と比べ安全性が高いとされる小型原発の開発で国際連携を進めるとし、50年に向けて利用を継続する方針を示した。脱炭素を実現する新技術の開発を官民挙げて推進するため、脱炭素に向けた研究・開発を支援する2兆円の基金を創設する。野心的なイノベーションに挑戦する企業を継続して支援していく方針。


また、政府は、脱炭素を促す施策として、欧州を中心に導入が進むカーボンプライシング(CP)という仕組みの導入に向け2021年から本格的な制度設計に着手する。温暖化ガスの排出量が多いほど支払う対価も高くなり、排出抑制の動機づけとなる。企業は対策を行って排出量を減らすか、排出の対価を支払うかを選ぶことになる。温暖化ガスの排出削減目標の高い欧州では、炭素価格を高く設定することで企業の低炭素化と将来の競争力強化を促している。一方、排出量の超過による課金や炭素税が電気やガスの値段に転嫁されると、国民生活に影響が出ることもあり懸念する声もある。また、既存税制との兼ね合いも整理する必要がある。ただ、日本企業からも成長への効果を期待して、CP導入を政府に働きかける企業グループからは、短期的にはコストがかかっても、世界で企業の競争力を高めるには欠かせないとの意見も出ている。カーボンプライシングの導入に向け、政府には、具体的な制度設計が求められている。


政府が掲げた2050年の温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標に対する大手企業への調査では、回答したすべての企業が賛同しており、企業も温暖化対策に前向きな姿勢に転じている。18年度のCO2排出量が、日本全体の排出量の13.9%を占めている日本の鉄鋼業界では、大手3社がCO2の削減目標を設定し、短期と中長期の両面で設備投資や革新技術の開発を進めている。最大手の鉄鋼メーカーは、2050年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする方針を決め、長期の環境経営計画に盛り込む方針。水素製鉄法の導入を目指すほか、排出ガスの少ない電炉の活用を広げる。CO2排出量が大きいセメント業界も脱炭素化に動いている。世界のセメント企業で構成されるグローバルセメント・コンクリート協会は、50年までにCO2排出を実質的にゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すと発表。グローバルで温暖化ガス削減に向けた機運が高まっている。セメント産業のCO2は、大半が主原料の石灰石から出るため削減が難しいが、日本の大手セメント企業もCO2を回収する新技術の開発を進め、50年にCO2の実質排出量をゼロを目指す。さらに、大手石油会社でも、50年に自社の事業活動からのCO2排出の実質ゼロを目指すことを方針として打ち出しており、製油所などからの排出量削減策を軸に、回収や再利用を通じた排出の相殺や再生可能エネルギー事業の強化など脱炭素関連の取り組みを拡大していく。このように、政府が、脱炭素社会の実現を目指すと宣言したことで、企業側も大きく舵を切り脱炭素に向かって進み始めている。


脱炭素社会に向けた移行を進めるためには、50年にどのような社会を構築するのかという長期ビジョンを描くことが必要である。あるべき未来社会の姿を共有して、その達成のために、いつまでにどのような行動や政策が必要なのかという複数のシナリオを描き、長期的な視点から効果的な短期・中期の政策を立案・実施していくことが求められる。また、脱炭素社会の構築は、CO2削減のためだけではなく、人口減少や過疎化といった課題に対して、情報通信技術などの新しい技術を取り込み、より良い豊かな生活を実現するものにしなければならない。

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BCT Monthly report 2021年01月